つげ義春の房総で妄想紀行。

2012年09月26日 00:35

房総半島をぐるりと一周してみたい!という淡い願望を胸に関東に出掛けてみたけれど、偶然立ち寄った渋谷の本屋で、「つげ義春を旅する」に出会ってからは、一気にマニアック色濃厚な、つげ義春エッセンスに触れる旅へと変貌しました。


<1日目>

不景気のはじまりは、いつも東京!?

 株価大暴落の日に相応しい、重苦しい東京写真・・・。隅田川がなんだか険しい流れに見えてきます。春の〜うららの〜♪から半年が過ぎて、すっかり季節も世の中の雰囲気も変わってしまいました。そういえば、バブル崩壊の印象的なシーンだった「山一証券」破綻の日も東京に滞在してたな・・・(苦笑)今度は「大和生命」破綻の日に、やっぱり東京に滞在しているワタクシ (・・;) どうせなら、どこか株価ボードの前にでも言って、ニュース画像っぽいのを撮ってくればよかった。と、いうわけで、今回は東京アートスポット探訪です。

 プライベートでは、ほぼ2年ぶりの東京。今回は一度も行ったことのない場所を重点的に回ってみることにしました。まずは東京都現代美術館へ行ってみたものの、展示替えのため休館中。約1週間ほどフライングでした・・・。いつのまにか深川下町スポット探訪に。この三輪自転車、最近見掛けなくなりましたよねー。こちらではまだまだ現役です☆いやぁ、下町も頑張ってますねー。手作りのベンチやオブジェ!?のようなものを設置して立ち寄るヒトを迎えてくれる、おもてなしに力を入れている感じでした。ちょっと公園で旅先メールなど打ちながら一休み。東京みたいな大都会に来ると公園がオアシスのように感じます。郊外の公園は人が少なくて、かえって落ち着かないものですが、都会の公園はいつか読んだ吉田修一の「パークライフ」のように、色んな人がそれぞれの事情でやってきてるようで、決して子供と子連れママと老人だけのオアシスにはなっていないのです。


東京の新しいアートスポット探訪!

 ちょっと足を延ばして、清澄白河にある小山登美夫ギャラリー&タカ・イシイギャラリーへ。最初どこにギャラリーがあるのかよくわからず右往左往してましたが倉庫の守衛さんとかに聞いて、やっとたどり着いたのが、この建物!倉庫とは聞いていたものの、まさか、ここまでしっかり倉庫だとは・・・(笑)業務用の貨物エレベータに乗って上階にあるギャラリーへ入り、現代アートを鑑賞。中と外のギャップが素敵過ぎます。エレベータはボタンを連打しないと中々来てくれない、早い者勝ちの呼び出し方式!動いてる時はリクエストを受け付けてくれないので、どこかのフロアに停まった時が勝負!スタッフの方がコツを教えてくれました。

 夜は個性的な本屋探訪。中野ブロードウェイに初めて行ってみた☆いやぁー、噂には聞いていたけど、ここはスゴい!マニアック過ぎて、ある意味、秋葉原よりも濃いなぁー(笑)。圧倒されるばかりで、ホントにただひたすら見物・・・。ビル内は古くて狭くて、何世代か前のテナントビルを探検している感じがまた妙にマッチング。その後は渋谷にある「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS」へ。文化村通りをぐんぐん突っ切っていた先に、ひっそりとその店は存在していました。こちらはオシャレな本屋さんで、外から見るとまるで本のショーケースです☆本は全て年代別に棚にまとめられて、自分の生まれた時代はどうだったのか?とか色々な切り口で、その時代その時代の雰囲気を察することができるようになっていて独特!僕はここで明日行こうと思ってる房総半島に関する本をゲットしました☆中でも今まで探していたけど見つからなかった「つげ義春を旅する」が手に入ったので、その辺りからのアプローチで房総半島の旅になりそうです。

 

<2日目>
鈍行で房総半島を一周スタート!

  決してラクダに乗って房総半島を一周したわけではありません(笑)。東京に来て二日目の朝はあいにくの雨・・・。とりあえず外房線と内房線で半島を一周することは決めていたけど、どこで途中下車するかは全く決めていなかったので千葉駅で房総半島の地図付ガイドブックを買って目を通しながら出発。都心から千葉までの、せかせかした雰囲気とは打って変わって、ボックス席が並んだ、ちょっぴりレトロでのんびりしたローカル列車に乗り込む。立ち寄るポイントは、海に近くて、それほどリゾートリゾートしていない所。ガイドブックと昨日買った本をペラペラめくりながら、厳選に次ぐ厳選の結果、童謡「月の砂漠」のモチーフとなった、ちょっと文学チックな雰囲気が漂う「御宿」と、つげ義春の「ねじ式」のモデルとなった、ちょっと異世界っぽい雰囲気漂う「太海」で途中下車することに決めました。途中「貧困旅行記」に登場した地名を見掛けて、かなり萌える!(笑)この辺りは何十年も景色が変わっていないのでは?と思ってしまう。

  車内は3連休初日とあってか、リュックや大きめの鞄を抱えた旅行客多数。鈍行でも(千葉から)2〜3時間で半島の先っぽまで行けるというのは、かなりお手軽!しかも1時間に1本は確実に電車あるので安心です。ここのところ強烈に不便な所ばかり行ってたからなぁー。首都圏はやっぱりどこに行くにも利便性がいいのを実感します。さて御宿で電車を降りると、一緒に降りた客のオジサンが”水着(上半身裸)にリュック”の出立ちで目がテンに・・・(・・;) 駅を出るとそのまま海のある方向に向かって歩いていく。しかも途中の通りにある店の人たちにも普通に「こんにちは!」とか声掛けられてるし。そのまま尾行するのもなんだし(笑)お腹が空いたので、お昼時サービスの居酒屋ランチにすることにしました。海鮮丼で海の幸を堪能〜♪いかにも旅人という出立ちからか店のお兄さんに「どこまで行かれるんですかぁ〜?」と聞かれる。「房総半島を一周してるんですよー!」と答えると「いいですねぇー!」と。平日にリュックサック背負った、いい歳した男を見た本音はいかに!?(笑)御宿は童謡「月の沙漠」のモチーフとなった地。大正中期より昭和前期にかけて活躍した作者の「加藤まさを」も、この地が好きになって移住して晩年を過ごしたらしいです。「月の沙漠記念館」見学者は僕ひとり・・・。ゆったり貸し切り状態でした。実際の砂漠では夜は急激に冷えて、ラクダも休んでしまうので、月下を優雅にキャラバンするなんてことはなく、いかにも日本的癒しの想像イメージであるらしい。


代表作「ねじ式」の舞台に立つ

  御宿駅のホームには海女さんが・・・ちょっとコワい。その後は小雨に濡れながら駅に戻って再び南下する。安房鴨川で内房線に乗り換えて一駅で「太海」に到着。風情のある漁村です。ここがあの「つげ義春」の「ねじ式」のモチーフとなった場所らしいです。この手こぎ舟が名勝・仁右衛門島と漁港の間を行ったり来たりしている光景もなんだかシュール。港ではあちこちで漁師たちが集まって、あれやこれやとダベっている。地元のヒトばかりで、カメラ首にぶら下げている僕は完全に浮いている・・・σ(⌒▽⌒;) それでも小学生からお爺さんまで皆すれ違い様に挨拶をしてくれて癒されます。田舎はやっぱり良いなぁー。海岸まで降りたら、しばし堤防に腰掛けて、海をボーッと眺めてた。心が洗われる。天気も急速に回復してきた。広ーい海岸の砂浜では貝殻拾いを黙々と続けているおじいさんが一人。なんだか昨日の都心とのギャップが大き過ぎて、世界の果てまで来ちゃったみたいだ(笑)。

  つげ義春の漫画には、房総半島が舞台となった作品がたくさんある。「やなぎ屋主人」「海辺の叙景」「庶民御宿」「西部田村事件」など。どれもなんとも一癖ある作品なんだけど、舞台となった土地の空気を強烈に感じる。つげ義春氏が気に入って何度も訪れたという房総半島の最果ての漁村が持つ独特の魅力が少しわかったような気がしました。これがいわゆる場末の雰囲気ってヤツか!?小さな青い屋根の駅舎に小さなバス。風情のある太海駅に戻って内房線を千葉に向けて戻る。館山付近で日没を迎える。ちょっとシーズンオフな時期の房総半島の海もいい感じでした。今度は内陸にも行ってみたいなぁーって思います。

 

<3日目>
最終日は都内でまったりと

 日曜の朝は公園で過ごす。というのは、東京に来た時だけ(笑)。早起きしても朝が遅い東京の日曜日・・・。まずは井の頭恩賜公園へ向かう。ここは何度も訪れているけど、ずっと変わらないところがいいのです。何気に気がついたけど、公園内のベンチには、言葉が刻まれたプレートが取り付けられていて、あたたか〜い気持ちになれるメッセージが☆しか〜し、ほとんどのベンチは先客がしっかり占領してるので、そうそう覗きこんで読むわけにはいきません(笑)。井の頭公園らしいアイデアだなぁーと思いました。のんびりとした雰囲気。アートのフリーマーケットもちゃんと公式に認められるようになったみたいだ。ただ有料になったみたいで、以前のように学生が自分の作品を人前で披露しよう!というような荒削りなハングリーな精神は感じられなくなったような・・・。それでも個性的な出展者がズラリ!!「漫画の読み聞かせ屋」さんなんてのもあって、めちゃくちゃ迫力あって注目を集めてましたよ(笑)。公園をあとにして吉祥寺の町中へ向かい途中のこと。あっ、これが噂の・・・。この町でなければ、訴えられることもなかっただろう!?

 東急百貨店の目の前の雑居ビルにひっそりと存在する「百年」という本屋さんに入ってみる。ここはいわば本のセレクトショップ。演劇や芸術、創作関係の書籍を中心に扱っていて、街の個性ともよく合っているような気がしました。株価大暴落と共にスタートした今回の旅。気のせいなのか、行った場所のせいなのか、前に来た時よりも外国人(特にアジア系)観光客はずいぶん減ってるような・・・。房総半島にしても、井の頭公園の一コマにしても心地良い時間や雰囲気を求めて、等身大の暮らしを愉しもうとする人たちの姿が印象に残りました。損か得かだけの物差しだけでなく心を満たすのにホントに必要なものはなんなのか、そんなことを意識させてくれた旅でした。金融市場が混乱してる間に時代は大きく変わってきてるのかもしれません。