賢治が夢見た理想郷「イーハトーブ」を巡る旅。

2012年09月29日 21:02

宮沢賢治が夢見た理想郷「イーハトーブ」。東北の大地へはあえてスローな旅を演出すべく船で向かいました。名古屋から仙台、そして北海道の苫小牧まで海の路を結ぶ太平洋フェリー。このうち名古屋から仙台まで約20時間の船旅を体験。船は「南太平洋のしらべ」をコンセプトにした豪華フェリー「きそ」の特等室プランで優雅な航海のひとときを愉しみます。

<1日目>
名古屋港を夜に出航する、ゆったり船旅!

 今回の旅は、テレビ番組(NHK総合「ドキュメント72時間」)で太平洋フェリー密着ドキュメントを観て「僕が求めてたのはこれだ〜!!」と、すぐに予約して特等室をおさえましたのがきっかけでした!実は仙台に着いてからのことは直前まで何にも考えていませんでしたが(笑)。あぁ、そういえば自分、昔、宮沢賢治ゆかりの地「花巻」へ行こうとしてたんだよなぁ〜ってことを思い出して、急いで「銀河鉄道の夜」を読み返して(いや、正確には観返して・・・アニメ映画版も傑作!!)、岩手・イーハトーブ巡りをすることに決めたのです!


 さて、前置きはこの辺にして本題の船旅レポートのスタートです☆

GW9連休を迎える前の最終日。仕事を早めに切り上げて名古屋港へ直行。「あれ、早いねー?!」とか同僚のみんなから口々に言われたりして、コソッと帰るつもりが、思いっきり目立ってしまった(笑)。フェリーには乗ってもクルマは連れていかないので、あおなみ線に乗って市バスに乗り換えて・・・という少々面倒なルートで名古屋港のフェリーターミナルへ向かう。ガラガラなあおなみ線車内には大きな荷物を抱えた旅人っぽい出立ちの乗客が数人。結構、クルマなし利用もいるみたいでちょっとホッとした。

 バスの中からチラッと船が見えて、思ってたよりデカくてびっくり☆「きそ」という2005年デビューの新造船で「カー・オブ・ザ・イヤー」ならぬ「フェリー・オブ・ザ・イヤー」2年連続受賞だそうです(そんなものがあることすら知らなかった・・・)。むか〜し昔の高校生の頃に修学旅行で、大阪から釜山まで船で行ったことがあるのだけど、その時の船よりもひとまわりもふたまわりも大きくてキレイだ。小汚い(笑)ターミナルで搭乗券を受け取って、いよいよ船内へ。入り口でスタッフがズラーっと並んでてお出迎え。エントランスは3層吹き抜けになってて、壁に照明が当てられて光ってたりする不思議な演出空間あり。時節とはいえ、こいのぼりがぶらさがってるのはビミョーだが・・・(笑)。インフォメーションカウンターでカードキーをもらってから階段を昇って客室フロアに向かい部屋に入った。

 「おぉ〜!広い!!」最近、旅で安ホテルばかり泊まってたので、きっとこれはかなりオーバーな表現かも知れず!(笑)でもバストイレ付で、冷蔵庫も電磁式湯沸かし器もソファもあって、大きめの液晶テレビに豊富な間接照明・クローゼットまでしっかりあって、ほんとにフェリーの中とは思えないくらいの部屋の雰囲気。どうせ船だからとあんまり期待してなかったので余計に感動。違うことといえば、船酔い時のための「ゲロ袋」、いや失礼・・・「エチケット袋」が備え付けられてることぐらい。揺れないといいけどなぁ〜。落ち着いたところでデッキに上がってみる。夕暮れの名港トリトンを船上で眺めるのはまた格別。洒落た天窓があってレストランが上から覗けてしまった(笑)。せかせかと名古屋港までやってきただけに、この出航前のひとときは幸せだったー。あちこちに自慢写メールを打つ(笑)。でも一人旅だからちょっと寂しい・・・。質素に2等客室とかで知らないオッサンと世間話でもしてた方が、ホントの船旅の楽しみが味わえたのかも!?

 船内を一通り探検したら急にお腹が空いてきたけどディナーバイキングという気にもなれなかったので、軽食スタンドコーナーでカレーとビールを注文(笑)。カレーが500円、ビール(生中)が550円と、船内の割には良心的な価格だ。窓際の席を確保して外を見てたらドラが鳴って船がゆっくりと動き出した。し、しまった、こんなところで出航を迎えるなんて・・・(苦笑)。出航は20時。さっと食事を終えて、再びデッキへ上がる。ちょうど名港トリトンをくぐる瞬間にはなんとか間に合ったー!が、あちらこちらの乗客から記念撮影カメラマンを頼まれて、なかなか落ち着いて名古屋港の夜景を満喫できず(苦笑)。中部国際空港まで頑張ろうかと思ったけど、さすがに寒くて寒くて部屋に戻ってしまった。「いま、どこ?」ってタイトルの付いた手作り風のプリントがあって、21時には中部国際空港沖、22時にはもう伊良湖岬沖にいると書いてある。時速40キロくらいのスピードだそうだけど、案外早いもんなんだなぁ〜。まぁ、確かに海上では信号待ちとかあるわけじゃないからね。そんなこんなで洋上の夜は更けていきました〜。

 

船の中で旅の二日目の朝を迎える。夕方まで続く日中の航海は、レストランで食事したり、部屋で読書したり、デッキで潮風に吹かれたり、洋上の展望風呂を楽しんだり、まさに動く健康ランド!?(笑)

<2日目>
渡り鳥と一緒に太平洋を北上する愉しみ。

 早朝、5時前に目が覚める。確か昨夜の船内放送で案内されていた日の出時刻のタイミングだ。パッと起きて素早く着替え、カメラを携えてデッキへ急ぐ。いつもなら迫る出勤時間と闘う慌ただしい一日のはじまりなのだが、こういう時は目覚めがいいから不思議(笑)。甲板の上に広がる空はあいにくの曇り空。霞みながらもなんとなく朝日の清々しい光を感じたけど、日の出が望めそうな天気でもない。早朝にもかかわらず、デッキには日の出を一目見ようと、ちらほらと乗客の人たちが東の空を眺めていた。しばらく朝の冷たい風に吹かれながら太陽が出るのを待ったけど、日の出の時刻をだいぶまわってるのに、明るくなるだけ・・・。あきらめて部屋に戻って二度寝する。

 次に起きたのは8時前。でも、今日はずっと船でくつろいでいれば良いわけで、いつもの朝のようにせかせかと何かを準備することもないし出掛ける必要もない!あぁ、なんて幸せ☆(笑)でも、お腹が空いたのでレストランで朝食バイキングをいただくことに。さすがにちょっと遅過ぎたのか、レストランは混雑してて少し待ってから入場。和洋織り交ぜたバイキングはメニューもまぁまぁ多くて満足。でも、ごった返すレストランは接客係が総出で切り盛りしてて慌ただしい感じだった。普通のホテルと違ってここの従業員は船員なわけで、一度乗務すると3週間くらい船を降りないこともあるそうだ。接客係は若い女性の姿が多く、年頃なのに不自由が多そうで、いろんな意味で大変だろうなぁ〜と余計な心配がふと頭をよぎる。朝食を摂った後は、しばし船内探検。そして部屋に戻って、いつもの生活では進まない読書に勤しむ。そして昼過ぎには海を眺めながらお茶できる軽食コーナーへ。昨夜はここで食事してる間に出航してしまいました・・・(笑)。遅めの朝にたっぷり食べて、昼もバイキングじゃ、ちょっと重いので、ここでお昼はチャーハンを食べました。昨夜のカレーはまぁまぁだったけど、チャーハンは・・・。でも海を向かい合いながらの食事は格別!

 こんな立派なホールもあって、映画やコンサートなどが催されます。ラウンジにはグランドピアノも置かれていて、午後にはピアノコンサートも開かれるらしい。部屋ではお茶を入れて読書したり昼寝したり、ウダウダと船上の時間を過ごす。読んでる本は「銀河鉄道の夜探検ブック」。非常にマニアックな内容で、宮沢賢治の傑作を隅から隅まで理論的に検証していく内容。例えば、”乗客は何人くらい乗ってたか?”とか”銀河鉄道は何両編成だったのか?”とか・・・(笑)

 船内放送が入って、14時過ぎにいよいよ太平洋フェリー名物の姉妹船とのすれ違いがあるとのこと。その名物とは昼に仙台を出航して名古屋へ向かう船と、異常に接近してすれ違うだけのことなのだが(笑)。デッキに出ると大海原・・・少し陽が射してきました。乗客も続々と大勢出てくる。はるか前方にかすかに船影が見えてきて、少しずつ近付いてきた。「ぼぉぉぉ〜ん」と大型船らしい太い汽笛が鳴って、たまたま船に乗り合わせた乗客たちが、お互いの人生に幸あれ!と、手を振り合います(NHKの番組ナレーションのパクリ!笑)。なかなかロマンチックな光景でちょっと感動した。あっという間に船は遠ざかっていく。午後はすっかり天気も良くなり、穏やかな航海が続いてる。デッキでは寝転がってる人がいたり、ベンチに腰掛けて読書してる人がいたり、明らかに船旅好きな人々が思い思いのスタイルで船上時間を過ごしていた。


僕もしばらくデッキで風に吹かれて、ぼーっと海を見て過ごす。船と並んで飛んでいる渡り鳥!?が見えました。なんかね、海の上でも鳥とかが普通に生活を営んでるのが見えて、それがすごく新鮮な感じがした。地上から離れて海にいると、日常の喧騒とか忘れられるから不思議。せかせかと仕事をし、どうでもいい小さなことに追い立てられて、あぁ、普段の悩みや憂鬱なんて、どれだけちっぽけなことかっ!(笑)あぁ、もうちょっと海に上に居たい。現実に戻りたくないよ〜。この航海が旅の帰りでなくて良かった・・・。

 潮風に当たった後は展望大浴場へ。(なんて早い切り替え・・・笑)サウナやジャグジーで体を癒す。大きな窓越しに海眺めながら風呂に入れるなんて最高!でも、漁船とか近くにいたら双眼鏡使えば覗けちゃうんじゃないの???(笑)ちなみにさっきの姉妹船とのすれ違いは男風呂側でした・・・そこら辺、やっぱ気を使ってるのかなぁ〜!?タオルを頭に被せて湯上がり状態丸出しで部屋へ戻る途中、さっきのラウンジでは、ドレス着たおねぇさんがピアノの弾き語りコンサートをやってました。タイミング悪っ。船旅ももいよいよ終盤です。
 定刻より30分早い16時30分に仙台港へ入港するとの船内放送が入る。朝からずっと船内で過ごしていたというのに、退屈なんかせずにあっと言う間に1日が過ぎてしまった。港内に入るとカモメの群れがお出迎え。いよいよ仙台に到着。荷物をまとめて下船する。素敵な船旅をありがとう〜。今度はもう一晩乗って苫小牧まで行きたいなぁ。


 連絡バスはほぼ満員。フェリーとはいえ、意外とクルマなし利用者が多いみたいだ。去年の夏以来の2度目の仙台。バスで約40分、仙台駅前に到着した。すぐに駅前のホテルにチェックインした後は、一度行ってみたかった「せんだいメディアテーク」へ向かう。広瀬通り、定禅寺通りなど繁華街を突っ切って歩いた。さすが東北の中心地、街を歩いた感じとしては名古屋よりも都会っぽい。海もいいけど、こうして都会の通りを歩くのも好きだなぁ。仙台FORUS周辺はごった返していた。あぁ、船上とは明らかに時間の流れが違う!(笑)


 さて「せんだいメディアテーク」到着。夜7時をまわっていたが、雑誌やインターネットが閲覧できるフロアは開いていて利用者も結構多い。図書館とギャラリーが複合したような施設で斬新な建築様式が特徴的だ。しばし地元雑誌を閲覧して情報収集。その後は駅前に戻って、仙台名物「牛タン」を食す。う〜ん、やっぱり美味しい。前と違う店に入ったけど、炭火モクモクでなかなかの雰囲気。それにしても、何か協定でもあるんだろうかと思うくらい、どこの店も値段が一緒・・・。
 お腹を満たしたところで、ちょっとネットで調べ物を、ということで人生二度目の漫喫に入る(笑)。思わず2時間以上も滞在してしまった。週末とあってか店を出る頃には結構な混み具合。ホテルおさえてあるから今回はいいけど、確かに貧乏旅だったら漫喫に泊まるってのもアリだなぁ〜と思った。
 ホテルはチェーンのを利用したけど、ここまで節約するかっ!ってくらいあらゆるものが簡略化されていて、なんかシンプル過ぎて寂しくなる雰囲気。テレビのリモコンはケーブル付いてるし、湯沸かし器もテーブルもない。新しいホテルだけど、比較的空室が多くて予約が入りやすかった理由がわかった気がした。寝るしかない退屈な部屋は、熟睡するにはちょうど良かったなぁー。こうして仙台の夜は更けていきました。

 仙台から新幹線と徒歩で約1時間ちょっと。そこは静かな森に包まれた童話の世界が広がっていました。まずは宮沢賢治記念館でケンジ作品についてお勉強!1世紀以上前にエコについて真剣に考えていた彼のポリシーとは?

<3日目>
牛タンを食べた翌日に家畜の一生について考えてみた。

 仙台へフェリーでやってきたのは昨日の夕方。朝起きると、空は快晴。最近のビジネスクラスのホテルは朝食無料のところも増えてきたけど、今回利用したこのホテルも然り。部屋の簡素な作りは寂しかったが、朝食のパンは美味しかった。GWとあってか、ビジネスホテルなのに客は若者ばかり。食べ盛りな客ばかりなので、食べ放題のパンもどんどんはけていく。


 ホテルを出ると朝の繁華街は、通行人も少なくて静か。仙台駅から新幹線で「新花巻駅」へ向かう。やまびこ号は1時間に1本しかないので注意しなくちゃいけない。列車はほぼ満席。山でも登るのだろうか、ものすごいでっかいリュックを抱えた厳重装備のおばさんが隣の席を2つ占拠していた。
 新花巻で降りると、まずは駅構内にある観光案内所「ステップインはなまき」でバスや観光スポットの情報を調べる。どうやら「宮沢賢治記念館」がある所までは歩けない距離ではないようだ。新幹線の駅前とはいえ、降りるとすぐ近くは畑や田んぼばかり。接続する(と言っても連絡通路も何もなくて、道路を横切って別の無人駅へ行かなくちゃいけない)在来線の釜石線は2時間に1本くらいしか列車がない・・・。高速道路の高架下をくぐって少し上っていくと「宮沢賢治イーハトーブ館」の入り口がある。そのすぐ上に「ポランの広場」という宮沢賢治設計の幻の花壇が再現されていた。ものすごい斜面にジグザグ階段・・・足腰が鍛えられる!

 まずは宮沢賢治記念館を見学。文学館だけど科学館を見ているような展示内容は、さすが宮沢賢治だ。僕が宮沢賢治が好きなのは、理化学的な視野から物語を編み出している、その懐の深さ。文学も科学も芸術も技術も、あらゆるものが融合している彼の作品世界。あと「心象スケッチ」ってのも素敵な響きですよね〜。


 でも賢治の動物を見つめるやさしい眼差しには感嘆させられる。命を繋ぐには数多くの命を犠牲にしなくちゃならない。そんな生命にとって不可避な食物連鎖の法則を守ることができなかったことさえ、やさしさに満ちあふれる切ない物語になってしまうのだ。例えば、「銀河鉄道の夜」の一節、たくさんの虫を食って生きてきたサソリが、イタチに追いかけられて逃げてた途中で井戸に落っこちる。そして、そのサソリは溺れながらこんなふうに後悔するのだ。「あんなに虫の命を取ってきたのに、こうして誰のためにもならず、ひとり水に沈んで命を落とすなんて、自分はなんて役立たずなんだろう・・・イタチにこの命をくれてやればよかった」と。

 ちょうど企画展は「フランドン農学校の豚」を取り上げていた。食用にされるためだけに生まれてきた豚の立場で繰り広げられる物語です。人間の都合で現実に食べられるためだけに生まれてきた命もあるわけで、なかなか生々しく鋭い視点だ。なんか昨日、仙台で食べた牛タンのことを思い出して、舌を切られた牛が僕の頭の中で暴れまくってる〜!(笑)僕なんか、生きてる間は散々エネルギー使っといて、最後は火葬で二酸化炭素放出するだけだろ〜!?うんこだって下水に流れた後は微生物の餌になって、それでも残った汚泥は焼却処分されちゃうらしいし。ほんとにオレ、何の役にも立たないなー。あぁ、でも豚の生姜焼きは大好きだし、生きてるあいだに牛タンだって100枚でも200枚でも食べたい!!(笑)
 37歳という若さで過労で病に倒れ、命を落としてしまった宮沢賢治。こういう物語を綴った賢治は菜食主義者だったようだけど、ベジタリアンは結構カラダ壊しちゃうパターンが多いような気がする。以前、僕のお気に入りだった、野菜を美味しく食べることをテーマにしたサイトの管理人も菜食主義者で、結局、カラダ壊してサイト閉鎖になってたし・・・。よし、いつまでも元気でいるために肉食おぅ(違っ)。

 記念館を出たあとは、胡四王山周辺の散歩道を歩く。なんだか静かで妙に風の音や鳥の鳴き声、ザワザワと葉っぱが揺れる音が聞こえる。この雰囲気は、ホント宮沢賢治の童話そのものだ。森の木々にはまだ葉っぱが茂っていないので、とにかく見通し良過ぎ!途中、カタクリの花が群生していた。こんなに大きいカタクリの花、初めて見た。今にも羽ばたきそうな花びらだ。太鼓やお囃子の音が山頂の方から聴こえてくる。ますますミステリアスな雰囲気。その響きに誘われるまま山を登ると神社があって、春祭りが執り行われていた。見学者も少なく地元の役の人だけでひっそりと行われるいる。しばし、舞を見学。ちゃんと司会進行役もいるのに、見学客が極端に少ないのでプレッシャーを感じてしまうじゃないか!(笑)

 その後は「宮沢賢治童話村」というところを見学する。こちらは子ども向けの遊べる施設といった感じだ。銀河ステーションを抜けると、だだっ広い芝生の広場があって、その向こうに「賢治の学校」「賢治の教室」という建物が建っている。一応、一通り見学したけど、ひとり旅で来る所じゃないな・・・(苦笑)。
 最後に「宮沢賢治イーハトーブ館」に入ってみた。ここは宮沢賢治研究の拠点となる施設で、図書室の他、ホールや会議室を備えている。ちょうど絵本の原画展がやってて、それがすごく良かったんだけど、販売してたポストカードセットに欲しい図柄が1枚も入ってない・・・。どうして〜!?そんなにもったいなぶらなくてもいいのに、とか思ってみたり。そして窓際の机に置かれた感想ノートに目を通してみたら、訪れた人が書き残した素晴らしい散文詩に出会った。さすが宮沢賢治ファン☆文才が多いですー。恥ずかしくて僕はメッセージ残しませんでした。
 どどっと一気にまわった宮沢賢治関連施設群をあとにして、駅方面へ戻る。が、1本バス乗り遅れることが確実になったので、途中で道草。満開の桜並木の方へ歩いてみることにした。

春の小川とちょうど見頃の満開桜!その向こうにはまたまた小さな神社があった。花見を期待して東北へ来たわけじゃないけれど、絶妙のタイミングで桜並木に出会う。先月末は地元で花見してるから、この1ヶ月間は桜ばかり結果的に追ってしまったような気がするなぁ。これだけ桜を見続けると季節感がおかしくなるねぇ。春が異常に長い気がする。すれ違ったクルマの窓が開いて、「もうちょっとすると上の神社から、ご神体が降りてくるから、撮影するといいですよ〜!」と、突然、地元の方に声を掛けられた。ホントに東北の人って旅人に親切だよなぁ〜。田舎の風景とともに人の温かさにもぐっとくる。


 で、その神社の周辺でうろうろ写真を撮ることに。この写真の影、宮沢賢治っぽくないですか!?中央じゃなくて右ね。ほらっ、マント羽織って帽子被ってさ、僕を見下ろしてるー!!それっぽく見えない???
 なんとなく人の気配を感じて見渡してみたら、線路の反対側の畑でおばあちゃんがこっちを見てる。すかさず会釈をすると、そっと会釈し返してくれて、何事もなかったようにおばあちゃんはまた畑仕事を始めた。とにかく静か。まるで時間が止まってるような場所です。でも新幹線駅まで徒歩15分圏内なのだ!!

 新花巻駅からバスに乗り、在来線の花巻駅へ。小さなバスに乗客は数人。登ったり下ったり、川を渡ったり、すぐ曲がったり、せかせか走って約30分、イギリス海岸とか通りながら大回りして花巻駅前に到着。お腹が空いたので、賢治が通ったというお蕎麦屋さんへ向かう。途中、古びた雑居長屋にたまらなく萌えた(笑)。うわぁ〜時代を感じるよ。全般に東北は古い建物がたくさん残ってる気がする。
 「やぶ屋総本店」はイメージしてたより大きな店で、ゆったりとカウンターで寛げた。賢治がよく頼んだという「天ぷらそば」をいただく。これにサイダーを付けて乾杯。そうそう、行きの船の僕の晩ご飯の、カレーにビールみたいなもんじゃないか(笑)。賢治も泡が好きだったようです。

 日も沈みちょっと暗くなったので、駅近くにある観光客寄せのための「未来都市銀河地球鉄道壁画」へ行ってみた。夜になると照明が点灯し、特殊な蛍光塗料で銀河鉄道が浮かび上がるらしい。でも誰もいないどころか、照明も点いてない・・・かなりガッカリ。時間的には点灯開始時間を過ぎているのだが。


 気を取り直して、今夜の宿がある北上へと東北本線を少し上る。昨日の仙台とのギャップがありすぎて、めちゃくちゃ寂しい〜。駅前なのに誰も歩いてな〜い・・・新幹線だって止まるのに。コンビニで買い物して、キャンペーンのスクラッチくじやってハズレたら「よかったらどうぞ〜!」レジのおじさんがアタリくじをくれた。何のためのくじなのか謎だ・・・。
 今夜の宿は、昨日の新しいけど簡素なホテルと違って、これでもかっていうほど小物や設備が充実しててフル装備なホテルでした。ユニットバスにはアフターシェーブ用の化粧水やクリームなど3種類くらい置かれていて、さらにボディソープに洗顔料まで別々に揃っている。でっかい湯沸かしポットに、金庫に、液晶テレビ、ズボンプレッシャー。北上の夜景が一望できる(さくら野とツボ八の看板くらいしかないが)大きな窓の前にテーブル、さらに椅子の背もたれが大きくて嬉しい。それでも、昨日よりも安い!!さすが北上。たまには県庁所在地でないところで泊まるのもいいなぁ。ぐっすり眠れそう〜歩きまくってヘトヘトだったので、出歩かずにしっかり休むことにする。

 旅の締めくくりは憧れの中尊寺金色堂へ。敵味方関係なく、動物や草木まで供養するという寺院は、まさに賢治の精神の原点です。


<4日目>
春爛漫の東北本線プチ鈍行旅。

 勢いだけで東北までやってきたツケがまわったのか、結構疲れて旅の最終日は寝坊してしまう。と、言うわけで遅めの時間にチェックアウト。相変わらず天気がいい。今日はもう少し南下して北上駅から平泉駅へ向かい中尊寺に行く。そう、目的は金色堂見物!金目の物に興味はないが(嘘)、いつも金色堂を保護する外枠の覆堂と呼ばれる建物ばっかり本に出てくるので、いい加減、中身をこの目で確認してみたくなった。
 さすが、東北の有名観光地。電車に乗ってた観光客っぽい荷物を抱えた人は、ほとんどみんな平泉で降りた。歩いても行けるのだけど、「るんるんバス」と名前がついた平泉巡回バスに乗る。どこで乗ってもどこで降りても1回乗車140円、なかなか中途半端な運賃設定だ。「お客さん、みんな両替すっから、小銭無くなっちゃったよ〜」いきなりマイクを通じて、運転手が呟いて車内爆笑☆えっ!でも、そりゃ困ることになるかと思って、急いで財布確認したらギリギリセーフ。バスは裏道みたいなところを迂回しながら、平泉駅周辺の観光地を回って行き、ちょっとだけ渋滞に捕まってから中尊寺に到着した。 


 急な坂道の参道を登って、ひたすら金色堂を目指す。さすがに参拝客が多い。ガイドさんが団体を引き連れた列が行く手を阻む。心臓バクバクいわせながら、グイグイ足を引き上げて追い越したりして、まだまだ自分は大丈夫!!とか思って、この後で筋肉痛が襲うことすら予想もせずに軽やかな気分で坂道を登っていた。


 さて、金色堂。拝観券を買うと「讃衡蔵」という国宝・重要文化財を3000点以上収蔵した宝物館の方にも入れるセット券でした。この「讃衡蔵」、すごいボリュームだったなぁ〜。1000年以上も前に作られたお宝の数々に、しばし目を奪われる。棺とか副葬品とか、すぐガラス越しに見ることができて、昔の人は小さかったんだなぁ〜とか、妙に実感する。でも最後に展示してあった金色堂の昭和の大修復作業の様子は、圧巻でしたね。1962年から約5年以上の歳月をかけて、気の遠くなるような細かい作業と高度な職人技でもって創建当時の輝きを取り戻したわけだ。かなり、金色堂への期待も膨らむ、膨らむ。

 あぁ、このアングル。みんなここからしか写真撮れなかったんだねー。で、やっぱり中は撮影禁止!カメラをしまっていよいよ金色堂とご対面。おぉ〜、ぴっかぴか☆屋根まで輝きを放っているー。同じ金でも、金閣寺とはまた違った趣きのお堂だ!そりゃ、そうだ。こっちの方が歴史も運もある。火事だって免れてるからね。確かに金色堂は”金色堂”だった。「五月雨の降残してや光堂」by 芭蕉そして・・・「みちのくの桜散るらん光堂」by RYOなんちゃって!?(笑)大満足で金色堂見物を終えたあとは、昔の金色堂を保護していたという旧覆堂へ。この中にあの金色堂があったんだねー。こっちは撮影OKだったので、想像力を膨らませてご覧ください(笑)。


帰りはゆっくり歩いて平泉駅へ向かう。無量光院跡にはスイセンが咲いていて、夏草じゃないけど、”兵どもが夢の跡”的風景が広がっていた。静かな商店街を突っ切って駅へ。売店でお土産買おうとしたら、「それ、いくらって書いてあったけね〜、悪いけどお客さん見て来てくれる〜?」と、人懐っこい口調でお願いされ、値札に書かれた額を正直に申告したら、オマケに”あんぱん”付けてくれた。買った物の3割くらいの額のオマケなんですが・・・。さすが、岩手県の人は噂通り、やさして大雑把だ(笑)。それにしても、この平泉駅(このページ一番上の画像)、絵に描いたような田舎の駅だねぇ。いい風景です。


「そばはな」さんの蕎麦はうまかったー
 一ノ関まで行って、たまたま駅前で見つけた「そばはな」という蕎麦屋さんで昼食。ここの蕎麦がすごく美味しかったんだ〜。こんなに春らしい山菜の新芽の天ぷらがたっぷり付いて、たったの1000円。隣の老夫婦は、蕎麦をおかわりしてましたよ!


 一ノ関から東北新幹線に乗って、一気に東京へ。指定席は全部売り切れだったのに、自由席はガラガラ。ちなみに僕が乗った次の日に、端末の異常で空席なのに指定席が埋まってる状態になってたとニュースで言ってたけど、この日もあやしかったのでは!?途中、福島から乗って来たキメキメのオシャレした学生くらいの女の子が、「とぉなぁりぃ、ぃいですぅかぁ↑」と無茶苦茶訛っててー「???」。まぁ、他人のことは言えないのだけど(笑)。東京で東海道新幹線に乗り換え。18時過ぎに発車する貴重な豊橋停車の「ひかり」に乗るため、ちょっと乗り継ぎの待ち時間ができたのだけど、待合室はどこも満杯・・・ったく、人の少ないところばかり旅行してたので、東京の人の多さにうんざりする。こうやって東北から一気に愛知まで帰ろうとすると、遠いと思っていた東京が妙に近く感じる。
 豊橋ではすごい大勢が下車してビックリ。こんなに混雑してる新幹線の豊橋駅なんて見たことない。危うく、接続の快速列車に乗り遅れるところだった・・・。
 そんなこんなで、初の長距離フェリールートを入れた東北4日間の旅も締めくくり。いい旅でした〜。コワいくらい天気にも恵まれたし。船と言うのは最古の交通手段だけあって、人が移動するということのホントのスピードについて考えさせられた。名古屋から仙台までかかる同じ時間で、飛行機なら世界中ほぼどこへでも飛んで行ける時代。歩きが旅の移動手段であった江戸時代だと、気が遠くなるくらい移動時間がかかったわけで、街道の宿場町はよく栄えたことだろう。鉄道が全盛の時代は駅前の中心街がよく栄え、クルマの発達によって郊外へ分散することになった。つまり、交通のスピードアップや形態の変化は、途中が衰退するということだ。そして、点と点で結ばれた街は、どこも同じような風景になり均質化していく。

 でもね、東京のコンビニと北上のコンビニは置いてある商品は同じでも(いや、結構違ってる!?)、店員や雰囲気がまるで違うんだよ。日本国内、どこ行っても同じだぁーと嘆いているのはよく聞くけど、あちこち歩いてみるとやっぱり違う。目的地まで向かう途中こそ、旅の醍醐味。大海原でポツンと海を眺めていても、飛行機の窓から地上の夜景を眺めていても、電車から車窓の風景を眺めていても、移動しているということに変わりはない。その移動時間が長ければ長いほど、旅先の空気に自然に馴染んで行けるような気がする。人にとって心地良いスピード。どこにでも早く行ける便利な世の中だけど、あえて時間を掛けて移動してみるのも贅沢な旅の道楽のひとつなのかもしれない。